屋根葺材としては茅、本瓦、桟瓦、洋瓦、石綿スレート、金属板等々があります。旧町域の約40%は本瓦葺で、これも表側は桟瓦に改造し、背面に本瓦葺を残すもの、或いは元は本瓦形式であったもの等を加えると50%を超えると見られています。特に中之町通りだけに限ると、90%は本瓦葺か元本瓦葺であった家(1979年時点)で、町並景観に重要な役割を果たしている事が知られていました。平成13年現在では、それよりもかなり割合は低下していると思われます。
本瓦葺は江戸時代から続く古い形式ですが、当地では昭和の初期まで本瓦葺とするのが一般であり、中には戦後でも本瓦葺とするものが見られ、また、ごく最近の改築にもわざわざ本瓦を採用した例もあります。
ところで、1595年(文禄4)の町全体に及ぶ大火の事を述べた1722年頃(享保頃)の記録(「穴織宮拾要記末」)に「此時(文禄4)瓦ふき一軒もなし、皆わら葺、本町上ノ家ハ板ノ取ふき也」とあります。これに近い様子は1696年(元禄9)刊の「呉服絹」の挿絵には14棟の町家と1棟の土蔵が描かれ、土蔵のみが本瓦葺です。この絵図が当時の様子を忠実に描いているとすれば、本瓦葺は土蔵以外に殆どなかった事になります。
しかし、実際にはこの頃には本瓦葺の町家がかなり建っていた事が「伊居太神社日記」により知ることができます。日記には「裏垣内瓦葺かしや元禄二年に建候をゆるみ候故享保五年六月十三日より取付」とあり、1689年(元禄2)には貸家が既に本瓦葺で建てられています。
以後1714年(正徳4)「しはヤ(柴部ヤ)瓦ふき」「柴アヤ棟つつみ瓦ふき仕廻」、1692年「こんや太右エ門家瓦にふく棟上ケ、下地わらかこへ」、1717年(享保2)「中新町見のや惣エ門なや隠居焼跡瓦葺ニ建」、「中新町ちやゝ長兵エなや瓦ニ立」、1718年「かしや瓦屋根ふき」、1719年「北ノ口かやのや源兵エ家下地ノ上瓦ふき」、「風呂や瓦ふき」等々、瓦葺の事がしばしば見え、納屋すらも瓦葺にしている事が分かります。
1720年(享保5)に中新町で起きた24軒を焼く大火の後にはこれほどの大火がみられない事から考えても、この頃には町の主要部分は殆ど瓦葺になっていたものと考えられています。
桟瓦葺については何時頃から採用され始めたか明らかではありませんが、昭和期まで本瓦葺とするのが通常であった事を考えると、桟瓦葺の採用は早くても明治以後と考えられています。
さて、以下は屋根形式と出入形式についてです。旧市街地では新しい鉄骨あるいはコンクリート造は別として(屋根は水平な陸屋根)、屋根の形式には、切妻造・入母屋造・寄棟造がありますが、切妻造が圧倒的に多く、入母屋造・寄棟造は少数です。出入形式は棟に直角に入る平入と棟に平行に入る妻入(妻を正面に見せる)とあり、平入が殆どで、妻入は23棟程です。
切妻造の場合(1)大きな妻壁をそのまま見せるもの、(2)妻壁に水平に小庇(水切)を1段又は、2段付けたもの、(3)小庇を一方の屋根の流れに平行して取り付け、妻が2つ重なるように見せたもの、(4)妻側の前半を半軒幅で落棟にし、切妻の妻を2つ見せるもの((3)はこれを模したもの)等の手法が見られます。隣同志の建物の壁が接するか極めて近接する場合は(1)の方式となっていますが、池田では一般に建物間隔は1〜1.5尺程で、(2)の方式を取るものが多くなっています。(3)(4)は角地で妻側に道路がある場合に取られていますが、この場合でも(1)(2)の方式が見られます。但しこの場合は下半に板を張り、(1)では上半の土壁との間に水切板を入れています。(図版5-3)
(2)(3)は、風雨による大きな妻壁の亀裂や剥落を防ぐ工夫の1つですが、角地の場合等では(4)と共に壁面の意匠となっています。
入母屋造には両妻共入母屋造にしたものと、片側のみ入母屋にし、他方は切妻にした片入母屋造とがあります。入母屋造30棟あまりのうち両入母屋造は7棟程で、いずれも明治以後の建物です。
場所は必ずしも角地とは限らないものの(一般には角地に多い)、いずれにしても道路から入母屋造の妻から見られ、また大きな家では入母屋造にしていることから見ても、入母屋造は屋根の意匠的効果を狙うと共に、家の格式を示したものと思われます。
今はありませんが、江戸にも名の聞こえた酒造家の満願寺屋は入母屋の八棟造でしたし、岸上家(江戸時代は酒造家)も同じような屋根形式を持っていました。入母屋造に比べて寄棟造は更に少なく15棟程で、江戸時代のものは1棟もありません。
ところで、妻入23棟のうち、その屋根形式を見ると、切妻造8棟、入母屋造10棟、寄棟造5棟となります。いずれも散財していますが、切妻造は町の中心から入り込んだ処に見られるのに対して、入母屋造は中之町通りや西本町から西ノ口町へ抜ける道路沿いと旧主要道路沿いに見られ、意匠効果を狙っている事が分かります。
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